『天孫降臨』という言葉をご存じでしょうか?
『天孫降臨』とは、日本神話において天照大神の孫である瓊瓊杵尊が、高天原から地上へ降り立った出来事です。
国譲りによって葦原中国(地上世界)を手に入れた高天原(天上世界)の神々は、その統治を任せるためニニギノミコトを地上へ派遣しました。
この神話は、皇室の祖先譚としても重要視され、『古事記』や『日本書紀』の中でも特に有名な場面のひとつです。
実はこの時に下された神勅は、現代の皇室や伊勢神宮、そして私たちの生活にも繋がっています。
天孫降臨は単なる神話ではなく、日本の国の成り立ちを説明する重要な物語なのです。
この記事では、天孫降臨とは何か、現代との関係性などを分かりやすく解説します。
日本神話とは
本題の前にまず日本神話とは何かという所から整理しておきましょう。
日本神話とは日本の正史である『日本書紀』『古事記』に記されている神代の部分を指します。
日本書紀と古事記はまとめて『記紀』と呼び、日本に伝わる伝承や歴史をまとめた奈良時代に編纂された歴史書です。
神代の項目は伝承や記録を創作と融合した民族の歴史として編纂されています。
天照大神と瓊瓊杵尊
『天孫降臨』の主役となるのは天照大神と瓊瓊杵尊の2人の神です。
天照大神

天照大神(以下アマテラス)は日本神話における最高神であり、高天原という天上世界を治める神です。
『古事記』や『日本書紀』によると、イザナギが黄泉の国から帰還した後、禊を行った際に生まれたとされています。
また、アマテラスは後の皇室の祖神ともされており、日本神話の中でも特に重要な存在です。
高天原とは
日本神話の世界観では世界は
高天原(天上世界)
葦原中国(地上世界)
黄泉の国(地下世界)
の三層に分かれており、その中でも高天原は『天つ神』と呼ばれる上位の神々が住む階層となっています。
| 世界 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 高天原 | たかあまはら | 神々の天上世界 |
| 葦原中国 | あしはらのなかつくに | 地上世界(日本) |
| 黄泉の国 | よみのくに | 死者の世界 |
瓊瓊杵尊
そしてアマテラスの孫に当たるのが瓊瓊杵尊(以下ニニギ)です。
国譲り神話によって葦原中国(地上世界)が平定された事を受けて、地上の統治の為に高天原から葦原中国へ降り立つ事になります。
この地上へ降り立つ物語こそが『天孫降臨』です。
天孫降臨とは

さて、いよいよ本題です。
これまで確認してきたように
天孫降臨とは、天(アマテラス)の孫であるニニギが高天原から地上へ降り立った出来事です。
高天原の神々は最初から地上を支配していたわけではありませんでした。
当時、地上である葦原中国は大国主神(以下オオクニヌシ)が治めており、高天原とは別の勢力が存在していたのです。
しかし、葦原中国は元々アマテラスの親であるイザナギとイザナミが生み出した大地であったので、アマテラスは
『自分の血統が葦原中国を治めるのが正しい形だ』
と考える様になります。
そこで天照大神は使者を派遣し、オオクニヌシに国を譲るよう求めました。
この交渉の末にオオクニヌシが国を譲った出来事が「国譲り」です。
こうして高天原の神々は葦原中国を手に入れましたが、実際に地上を統治する者が必要となりました。
そこで選ばれたのが、天照大神の孫であるニニギだったのです。
そしてニニギは地上に降り立ち、アマテラスの血族が葦原中国を統治する事になりました。
この一連の流れを『天孫降臨』と呼びます。
日本書紀や古事記では、ニニギは日向の高千穂峰に降り立ったとされています。
現在でも宮崎県や奈良県をはじめ、各地に天孫降臨伝承の地が数多く残されています。
天孫降臨の意味
この天孫降臨神話は何を伝えているのでしょうか?
天孫降臨は日本神話の中でも最重要と言っていい程の意味を持ちます。
この神話の一番の意義はアマテラスの血族による地上統治の正当性を示した所にあります。
記紀が成立した奈良時代は既に日本は天皇による統治が広まっており、皇統の継続は絶対的なモノでした。
しかし、なぜ天皇が国を治めるべきなのかを国内外へ向けて説明する必要があったのです。
そこで重要な役割を果たしたのが天孫降臨神話でした。
天照大神という最高神が、自らの孫であるニニギノミコトを地上へ遣わし、その子孫が国を治めるべきだと宣言したことで、天皇の統治は正当だと説明できるようになったのです。
つまり天孫降臨は単なる神様の英雄譚と言うだけではなく、「なぜ天皇が日本を治めるのか」という国家の成り立ちを説明する神話だったのです。
天照大神の神勅

天孫降臨において重要な点はもう一つあります。
日本書紀では、ニニギと共に天下ったオシホミミの二人へ対して、アマテラスから三つの神勅を下されました。(古事記では一つ)
古事記ではニニギ一人が天下りましたが、日本書紀では共にオシホミミが天下っています。
これは三大神勅と呼ばれ、現代まで日本の歴史観や文化に大きな影響を与えています。
天壌無窮の神勅

まず最初の神勅は【天壌無窮の神勅】です。
『葦原千五百秋瑞穂の国は、是、吾が子孫の王たるべき地なり。爾皇孫、就きて治らせ。行矣。宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮り無かるべし。』
現代語訳
『あの豊かな国は私の子孫が君主として治めるべき国です。私の孫である貴方が治めるのです。さぁお行きなさい。世界の繁栄は永遠に続くでしょう。』
これは三大神勅の中でも最も有名なモノで、古事記に出てくる神勅もこの【天壌無窮の神勅】を簡略化したものです。
内容はシンプルで、皇室によって日本を統治する事が示され、また永遠の繁栄を願われています。
宝鏡奉斎の神勅

次に下されたのは【宝鏡奉斎の神勅】です。
『吾が児、此の宝鏡を視まさむこと、当に吾を視るがごとくすべし。ともに床を同じくし、殿をひとつにし、以て斎鏡と為すべし。』
現代語訳
『我が御子よ、この宝鏡を見る事は、私を見る事と心得なさい、鏡を常に身近に置き大事に祀りなさい』
宝鏡とは三種の神器の一つである八咫鏡を指します。
神勅の通り八咫鏡は皇室により厳重に管理され、崇神天皇の代に御霊訳をした形代(レプリカ)を宮中に、オリジナルの本体は伊勢神宮に祀る事とされました。
現代でも皇室は儀式など成果をアマテラスに報告する為、伊勢神宮に参拝する事が慣例となっています。
斎庭稲穂の神勅

最後の神勅は【斎庭稲穂の神勅】です。
『吾が高天原にきこしめす斎庭の穂を以て、また吾が児にまかせまつるべし。』
現代語訳
『私たちの高天原の斎庭の稲穂を、私の御子に授けましょう。』
斎庭とは高天原にある神聖な田んぼの事で、その稲穂を持って地上に降りなさいと言う神勅です。
日本書紀ではこれにより日本に稲作が持たらされたとしています。
稲作のはじまりは古事記と相違があり、古事記ではスサノオが食物の神であるオオゲツヒメから獲得したものとされています。
いずれにしても古代では稲穂が神聖視されており、大嘗祭や新嘗祭など、天皇が農作物を通して国民の幸せを願う儀式を行う理由となっています。
三種の神器
天孫降臨の際、ニニギ達はアマテラスから三種の神器を授けられました。
三種の神器とは以下の三つの神器を指します。
| 神器 | 読み方 | 保管場所 |
|---|---|---|
| 八咫鏡 | やたのかがみ | 伊勢神宮 |
| 草薙剣 | くさなぎのつるぎ | 熱田神宮 |
| 八尺瓊勾玉 | やさかにのまがたま | 皇居 |
三種の神器は、前述の宝鏡奉斎の神勅とも相まって皇室の最重要アイテムとなっており、
ニニギが降り立ってから現代まで歴代天皇に継承されています。
三種の神器の継承は天皇の即位の絶対条件であり、かつて朝廷が2つに分断された南北朝時代であっても、三種の神器を保有する南朝が正統であると見なされた程です。
これらの神器は現代も伊勢神宮、熱田神宮、皇居にて保管されています。
まとめ
天孫降臨とは、天照大神の孫である瓊瓊杵尊が高天原から地上へ降り立った出来事です。
国譲りによって高天原の支配下となった葦原中国を統治するため、ニニギ一行は神勅を帯びて三種の神器とともに地上へ派遣されました。
この神話は単なる神々の物語ではなく、天照大神の血を引く天皇家が日本を治める正統性を示す重要な意味を持っています。
また、天照大神が下した三大神勅や三種の神器は、現代の皇室にも深く関わっており、天孫降臨の影響は現在まで受け継がれています。
天孫降臨とは、アマテラスの孫であるニニギノミコトが地上へ降り立ち、その子孫が日本を治める正当性を示した日本神話の重要な物語です。
重要ポイント
✔アマテラスがニニギ(とオシホミミ等の一行)を地上へ送り出した。
✔三大神勅を与えた
✔三種の神器を与えた









