日本神話には国譲りという物語があります。
国譲り(くにゆずり)とは、大国主神が治めていた葦原中国を、高天原の神々へ譲ったとされる日本神話の物語です。
出雲を治めていた大国主命は、なぜ高天原の神々に国を譲ることになったのでしょうか。
この記事では、国譲りのあらすじや登場する神々、そして神話が持つ意味について初心者にもわかりやすく解説します。
天孫降臨へとつながる日本神話の大きな転換点を見ていきましょう。
葦原中国と大国主命

国譲り神話の舞台となるのが葦原中国、そしてその葦原中国を治めるのが大国主命です。
葦原中国
葦原中国は地上世界を指し、現在私たちの住む世界でもあります。
日本神話ではこの地上=葦原中国は、大地や自然を生み出したイザナギとイザナミによって創り出されました。
また、地上世界である葦原中国と共に、天上世界の高天原、地下世界の黄泉の国があります
大国主命
そして葦原中国を治めたのが大国主命(以下オオクニヌシ)です。
古事記によれば、オオクニヌシは数々の試練を乗り越えながら国づくりを進めた神でした。
因幡の白兎を助けた話や、義父スサノオから課された試練を乗り越えた話は特に有名です。
これら神話は出雲神話とも呼ばれています。
その後、オオクニヌシは少彦名命と協力し、人々が暮らしやすい国づくりを進めました。
こうして発展した葦原中国は、オオクニヌシが治める豊かな国となったのです。
しかし、この国に目を向けた存在がいました。
それが天上世界・高天原を治める天照大神でした。
高天原と天照大神
地上世界の葦原中国に対して、天上にある神々の世界が高天原で、ここに住む神々は『天つ神』と呼ばれました。
そしてその高天原を治めるのが、日本神話の最高神と呼ばれる天照大神です。
天照大神
天照大神(以下アマテラス)は、上記の様に大地や自然を造り上げたイザナギとイザナミから産まれた神であり、また、弟のスサノオはオオクニヌシの祖先に当たります。
アマテラスは太陽を司る神であり、高天原の支配者として神々を統率していました。
また、代々の天皇はアマテラスを祖先神としており、日本神話の中でも特に重要な神として位置づけられています。
国譲り

それでは本題の国譲りの解説に入りましょう。
高天原を治めていたアマテラスでしたが
『親であるイザナギとイザナミが作った葦原中国は、その血統である天つ神が治めるべきである』
という考えに至ります。
しかし地上では既にオオクニヌシが葦原中国を繁栄させ、王として君臨していました。
そこで高天原の神々は会議の末、オオクニヌシと交渉し統治権を天つ神に移行させる事を決定したのです。
一度目の使者派遣

玉蘭斎貞秀 – 『神佛図會』国立国会図書館デジタルコレクション, パブリック・ドメイン, リンクによる
交渉の使者として選ばれたのはアマテラスの子である天穂日命(以下アメノホヒ)でした。
こうしてアメノホヒをオオクニヌシの下へ送り込みますが、三年経ってもアメノホヒから報告がありません。
実はアメノホヒはオオクニヌシの人柄に心服してしまい、彼の側についてしまっていたのです。
二度目の使者派遣
最初の交渉が失敗に終わった高天原の神々は、再び使者を派遣することを決定します。
次に選ばれたのは天若日子(以アメワカヒコ)でした。
アメワカヒコは弓矢を授かり、オオクニヌシとの交渉を命じられます。
しかしアメワカヒコもまたオオクニヌシ側につき、さらにはオオクニヌシの娘と結婚して地上での生活を始めてしまいました。
こうして二度目の交渉も失敗に終わります。
三度目の使者派遣

岳亭春信 – https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1937-0710-0-231, パブリック・ドメイン, リンクによる
二度にわたる交渉の失敗を受け、高天原の神々は新たな会議を開きます。
その結果、もはや失敗は許されないと判断され、武神である建御雷神(以下タケミカヅチ)が派遣されることになりました。
タケミカヅチは葦原中国へ降り立つと、オオクニヌシに対して国譲りを求めます。
この要求に対しオオクニヌシは
「自分一人では決められない。息子たちに意見を求めてくれ」
と回答し、タケミカヅチはオオクニヌシの二人の息子との交渉に移ります。
建御名方神との戦い
オオクニヌシの息子の一人である事代主神は国譲りに賛成しました。
しかし、もう一人の息子である建御名方神は反対します。
建御名方神はタケミカヅチに決闘を申し込み、武力で要求を跳ね返そうとします。
ところがタケミカヅチは圧倒的な強さを見せ、建御名方神を打ち破ります。
敗れた建御名方神は信濃国の諏訪まで逃れ、その地で土着しました。
この神話は現在の諏訪信仰の由来の一つとも考えられています。
オオクニヌシの決断
oonamochi – oonamochi‘s photo, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
息子たちの意向を確認したオオクニヌシは、ついに国譲りを受け入れることを決意します。
ただし、ひとつだけ条件がありました。
それは、自分を祀るための壮大な宮殿を建てることです。
高天原の神々はこの条件を受け入れ、こうして葦原中国の統治権は天つ神へと移ることになりました。
この宮殿こそ、後の出雲大社の起源になったと伝えられています。
以上が国譲り神話の概要です。
本当は国譲りでは無かった?
『国譲り』は造語
そもそも『国譲り』というのは造語であり、日本神話の元である古事記や日本書紀には一切『国譲り』というワードは登場しません。
古事記や日本書紀には『葦原中国の平定』と語られるのみでした。
ではこの『国譲り』というワードはいつ生まれたのでしょうか?
文献を遡ると、江戸時代まではそのような言葉が使われた形跡はなく、明治に発行された論文に初めてその言葉が現れ、以降頻繁に使用される様になります。(参考:三浦佑之『出雲神話論』)
つまり、「国が譲られた」というのは近代に誕生した比較的新しい解釈なのです。
平和的な交渉だったのか
『国譲り』が造語であったとしても、交渉によって平和に統治権が移された事は否定できません。
「国譲り」という言葉からは、オオクニヌシが自ら進んで国を譲ったような印象を受けます。
実際、神話では高天原の神々が使者を送り、交渉を重ねた末にオオクニヌシが統治権を引き渡したと描かれています。
一方で、建御雷神と建御名方神の対決が描かれていることから、この出来事を武力的な制圧として解釈する研究者もいます。
もちろん、神話が何を反映しているのかを断定することはできません。
しかし、この物語の背景には、出雲系の神々を中心とする伝承と、大和王権につながる高天原神話との関係が反映されている可能性が指摘されています。
そのため国譲りは、単なる神話上の出来事ではなく、古代日本における勢力関係や政治的統合を象徴する物語としても注目されているのです。
国造り神話の意義
国譲りは単にオオクニヌシが国を手放した物語ではありません。
この出来事によって、地上世界である葦原中国の支配権は出雲の神々から高天原の神々へ移ることになります。
そしてアマテラスは、自らの孫である瓊瓊杵尊を地上へ送り出しました。
これが『天孫降臨』であり、アマテラスの系統天皇として代々続くことになります。
つまり、『国譲り神話』は大和系の神話と出雲系の神話を統合し、その後の地上世界の天皇の統治に正当性を持たせるためのエピソードと言えるでしょう。
まとめ
国譲りとは、出雲の神であるオオクニヌシから、高天原の神々へ葦原中国の統治権が移ったとされる日本神話の物語です。
アマテラスは葦原中国を天つ神が治めるべきと考え、何度も使者を派遣しました。最終的にタケミカヅチによる交渉によってオオクニヌシは国を譲ることを受け入れ、地上世界の支配権は高天原側へ移ります。
国譲りは、日本神話における大きな転換点でした。
この後、アマテラスの孫であるニニギノミコトが地上へ降り立つ「天孫降臨」が行われ、日本神話は次の物語へと進んでいきます。
重要ポイント
✔葦原中国はオオクニヌシが治めていた
✔交渉の末にアマテラスに統治権が移った
✔天皇の地上統治の土台となった






